7月13日、投資家のテスタさんが「Uberで頼んだうどんが、25〜30分の予定だったのに到着予定時間が何度も更新されて、結局3時間後に届いた」とポストして、134万表示を超える騒ぎになった。

これ、笑い話として消費されて終わったけど、俺は笑えなかった。副業で配達をやっている身として、そして配達員側の異変をここ最近ずっと聞いていた身として、「あ、繋がった」と思ったからだ。
先に結論めいたことを言っておくと——配達員がいないんじゃない。システムが引き合わせていない。そう考えると、バラバラに見える現象が一本の線で繋がる。もちろんUberの中身は外からは見えないので、これは観測からの推理だ。どこまでが観測でどこからが推測かは、その都度はっきり書く。
観測1:客側の悲鳴はXに転がっている
まず客側。この夏、Xにはこんな声が並んでいる。
- 「お買い物完了になってから30分以上届かない。キャンセルもできない」
- 「買い物完了してるのに『配達員が見つかりません』って出てる」
- 「地方だと配達員が見つからないのが普通」「こんな田舎で見つかったのが驚き」
「配達員が見つかりません」。この表示を見たら、誰でも「近くに配達員がいないんだな」と思う。俺もアプリの画面だけ見ていたらそう思う。
観測2:でも配達員側は「鳴らない」と嘆いている
ところが同じ時期、配達員側のXはこうだ。
- 「午前2時から稼働して鳴ったのはわずか1件。ダメ配達員認定されて干されてるのかも」
- 「10時半から一切鳴らない。もしかして干された?」
- 「バイク配達員が足りてれば容赦なく干される。それがUberの考え方」
「干され」というのは配達員界隈のスラングで、「オンラインで待機しているのに依頼が回ってこない状態」のことだ。つまり——客は「配達員がいない」と嘆き、配達員は「注文が来ない」と嘆いている。同じ時間帯に、同じアプリの両側で。
どちらかが嘘をついているのでなければ、間に立っている配車システムが引き合わせていない、という答えしか残らない。
観測3:先輩たちの証言「3回目から鳴らなくなった」
ここに、俺が同業の先輩ネットワークから聞いた話を足したい。地方エリアで長年専業でやっているベテラン勢の証言だ。
いわく——「朝は以前なら何回も連続で鳴って、クエストやピーク料金が積み上がって最終的な単価が跳ねるところまでいけた。ところが最近は、2回目までは鳴るのに、3回目から回ってこなくなった」。
しかも決定的なのは、そのうちの一人が深夜帯の常連だということ。深夜の地方に配達員がひしめいているわけがない。競争相手がほぼいない時間帯ですら、3回目から鳴らない。「他の配達員に取られている」では説明がつかないのだ。
念のため書いておくと、この先輩たちは依頼を拒否しまくっているわけでもない。応答率ペナルティ説も当てはまりにくい。
推理:3件目で止まる理由を、設計者の椅子に座って考える
ここからは推測パートだ。Uberの配車アルゴリズムの仕様は公開されていないので、「外から見えた挙動に最も整合する仮説はどれか」という消去法で考える。
仮説A:報酬の頭打ち制御(本命)
連続稼働は、クエスト消化・ピーク料金・連続インセンティブが積み上がって、後半の1件ほど「高い1件」になる。つまり運営から見ると、同じ注文でも「ベテランの3件目」は「別の誰かの1件目」より支払いが高くつく。だったら3件目で配布を止めて、注文を少し寝かせてでも安い受け手を探したほうが、トータルの支払いは圧縮できる——という計算は、設計者の椅子に座ると普通に成立してしまう。
先輩の「昔は単価が跳ねるまで鳴った」という証言は、まさにこの「跳ねる直前で止める」挙動と噛み合う。
仮説B:供給の維持(従犯)
一人のエースに全部食わせると、他の配達員が「鳴らないから」と辞めていき、供給網が痩せる。配布を強制的に散らして限界層を退出させないのは、マーケットプレイス設計の定石だ。ただ、深夜の地方には「散らす先」がそもそもいない。単独では説明できないので、Aの補助と見る。
仮説C:試し配りの副作用
配車AIが「常連以外にも一定割合を試験的に回す」設計だと、母数の少ない地方・深夜では試験枠の比率が大きくなり、常連が不自然に絞られて見える。この場合は狙った絞りではなく、都市部向けチューニングの誤爆ということになる。
どの仮説が正しいかを外から確定する方法はない。ただ、「2回までは配る」という閾値の存在は、ペナルティ(干され)よりも、支払いカーブのどこかに折れ点がある——つまり仮説Aの匂いを強くしていると俺は読んでいる。
観測4:白状すると、俺自身も「幽霊供給」だ
もう一つ、これは俺自身の話。最近の俺の稼働スタイルはこうなっている。
- 受諾率は完全に無視。Uberは基本ずっとオンにしておく
- ベースは他社のデリバリーで稼ぐ
- 安い単価が炸裂している時間帯は、Uberのオファーを眺めて蹴るだけ
- 単価が上がり始めたら、初めてUberを本気で見る
つまりUberの管理画面上、俺は「オンラインの配達員」としてカウントされているはずだ。でも実態は、働く気のない価格センサーでしかない。そしてXを見る限り、「ピークタイムは他社、オフピークだけUberオン」みたいな使い分けを公言する配達員は俺だけじゃない。
ちなみに直近で本気で走ってみた日の実録はこうだ(同業の先輩の記録も突き合わせた、地方エリアのある1日。数字は概算にしてある)。
- 他社A:夕方から夜にかけて立て続けに6件。1件あたりおおむね1,000円台
- 他社B:昼と夜で4件。1件あたり1,000円前後
- Uber:同じ夕方の時間帯に、同一店舗ピック・同一届け先の2件持ちが一度きり。報酬は2件合わせて数百円台
同じ人間が、同じ街で、同じ時間にアプリを全部オンにして走った結果がこれだ。「このエリアに配達員がいない」わけがないのは、他社の6連発が証明している。配達員はいる。Uberだけが依頼を回してこない。
クエストの話もしておく。この日、達成済みの回数クエストの上乗せは10回で540円——1件あたり54円だった。それとは別に、アプリには昼も夜もピークタイムのクエストがしっかり掲示されていた。昼は計12回の乗車で2,200円ほど、夜も計12回で2,000円ほど。1件あたりに直すと200円弱の上乗せだ。他社との単価差が1件1,000円級で開いている状況で、この上乗せが「他社を蹴ってUberを取る」理由になるかは、書くまでもないと思う。
そして、ここに一番の皮肉がある。ピーククエストは「昼に12回走れ」と要求してくる。でも、この記事でずっと見てきたとおり、当の配車システムは3回目から鳴らしてこないのだ。回数条件のクエストを看板に掲げながら、達成に必要な依頼の配布は自分で絞っている。配達員界隈の「クリアさせる気がないよね」という体感は、感情論ではなく、クエスト設計と配車挙動の矛盾として説明がついてしまう。
いや、矛盾ですらないのかもしれない。裏返して読むと、この組み合わせは一つの装置として完璧に機能する。単価を安く設定し、回数クエストで「件数をこなせ」と圧をかけ、配布を絞って依頼そのものを希少品にする——依頼が滅多に鳴らない環境では、1件1件が貴重に見える。「次がいつ鳴るか分からないなら、安くても取っておこう」。つまりこれは、安い依頼を受諾するように配達員を仕向ける装置として読める。単価計算で見抜くベテランは他社に流れ、残るのは安値でも走る層——結果として供給の選別まで進む。意図してそう設計したのかは、外からは分からない。ただ、結果としてそう機能していることは、ここまでの観測から言えると思う。
これが何を意味するか。システム側から見た「オンライン配達員数」と、実際に依頼を受ける気のある供給は、もう別物になっているということだ。「オンラインが何人もいるから、注文を寝かせれば誰かが拾うだろう」という賭けが空振りし続ける理由も、これで説明がつく。Uberは探しているフリをして、配達員はいるフリをしている。画面の両側でブラフの応酬が起きている。
繋がる:なぜ「うどん3時間」が起きるのか
この推理を客側に裏返すと、テスタさんのうどんが説明できる。
システムが「高い受け手に出すくらいなら、寝かせて安い受け手を待つ」という賭けをしているなら、都市部は配達員の密度が高いから、だいたい賭けに勝つ。多少遅れても誰かが拾う。到着予定時間が何度も更新され続けたのは、この「寝かせて待つ」が画面に漏れ出た姿だと考えると辻褄が合う。
問題は地方だ。寝かせても代わりの配達員が現れない。賭けはしばしば空振りする。実際、俺が先輩から聞いた中には「ラーメンの注文が1時間以上鳴りっぱなしのまま放置されて、キャンセルされて、その後また同じ注文が入り直していた」という目撃談もある。
さらに恐ろしい帰結がある。仮に「一人あたり2回まで」という配布上限が本当に存在するなら、一つの注文が打診される回数には数学的な上限が生まれる。最大で「2 × エリア内の配達員数」だ。配達員が4〜5人しかいない地方の深夜なら、その注文の持ち弾は最大10発前後。しかも観測4のとおり、その数人がほぼ幽霊供給だったら? 持ち弾は数分で撃ち尽くされる。
撃ち尽くしたあとの「配達員を探しています」は、もう弾のない銃を構えているだけだ。キャンセルまでの残り時間は、ただの演出になる。誰かが「地方の深夜客は放置しよう」と決めたわけではないのに、コスト最適化の副作用として「探しているフリの無人地帯」が自動生成される。
ついでに、この構造からは奇妙な予言がひとつ導ける。宙吊りになった注文に時間経過で料金が上乗せされていくなら、その注文は古くなるほど高くなる。でもエリアの既存メンバーは全員、受信資格を使い切っている。すると——遅れてエリアに入ってきた、まだ一度も打診されていない配達員が現れた瞬間、熟成された高値の注文がそいつに流れることになる。朝から真面目に張っていたベテランは安い初期オファーしか見られず、あとから来た新顔が高単価を引くという逆転構造だ。配達員界隈には「エリアに入った直後になぜか高額が鳴る」という理不尽なラッキーの報告が昔からあるが、その正体の候補がこれかもしれない。前回の記事で観測した「同じ距離帯の依頼なのにドライバーと時刻で単価が3倍以上割れる」現象とも噛み合う。
予測:「届かなイーツ」は再燃する。ただし前回とは違う顔で
「届かなイーツ」という言葉には、実は世代がある。
- 第一世代(2021年ごろ):配達員の絶対数が足りず、物理的に届かなかった。誰の目にも見える騒ぎだった。
- 第二世代(ここ数年の真冬など):配達員はいた。ただ「この寒さでこの単価では走らない」と受諾拒否が積み重なって届かなかった。ただしこの型には自浄作用があった。拒否されるたびに料金が釣り上がり、どこかで割に合うラインに達して、誰かが受けて解消される。オファーが飛び続けている限り、市場の価格発見は機能していた。
- 第三世代(今回の予測):拒否の応酬すら起きない。ベテランは幽霊供給として実質退場済みで、システム側も配布を絞っている。オファーが飛ぶ段階まで到達しないから、料金が釣り上がる前に持ち弾(2 × 配達員数)が尽きる。拒否されていないから、運営の画面上は「拒否率の悪化」にすら映らない可能性がある。発見も回復も、第二世代より遅い。
その上で、予測を置く。外れたら外れたで、それもこのシリーズのコンテンツだ(前回記事の予測も当たり外れ両方を開示している)。
予測1:猛暑で幽霊供給が実供給に戻る率はさらに落ちる8月、ピーク料金やクエストの上積みでは供給を釣り戻せない。上積みは「Uber自身の安い基準単価」へのオマケでしかないが、配達員はもう他社の単価と比べて動いているからだ。結果、「注文したのに届かない・勝手にキャンセルされた」という客側の報告が増え、「届かなイーツ」という言葉が再燃する。
予測2(ここが第三世代の肝):ただし、2021年のような全国的な大騒ぎにはならない。壊れるのは地方・深夜・悪天候といった、全体平均に埋もれるセグメントだからだ。運営のダッシュボードが全体指標を監視している限り、そこの壊滅はアラートを鳴らさない。だから今回の届かなイーツは、テスタさんのうどんのような散発的なバズと、地方在住者の「うちのエリア最近ひどい」という慢性的なぼやきの積み重ねという、否認しやすい形で進行する。運営は平均値を見て「概ね正常」と言えてしまう。
予測3の前提観測:絞られた側の配達員は黙って耐えているわけではない。「ピークタイムは他社、オフピークだけUberをオンにする」という使い分けを公言する配達員も出てきている。つまりUberのコスト圧縮は、一番人手が必要なピーク帯にベテランを競合へ送り出すという形で自分に跳ね返り始めている。絞る→稼げない→ピークは他社→Uberの供給がさらに薄くなる→届かない、の悪循環だ。
予測3:Uberは絞りを緩めるのではなく、別の手を打つ。過去の動き(ランク制の導入、インセンティブ構造の組み替え)から見て、「配達員への支払い総額を増やさずに供給を確保する」方向の施策——たとえば特定時間帯・特定エリア限定の一時ブーストのような、狙い撃ちの微調整が来ると読む。
おまけの検証予告:「時間差でエリアに入った配達員が高値の熟成注文を引く」説は、実は検証できる。同じエリアで張り込み組と時間差エントリー組に分かれて、受けたオファーの単価を突き合わせればいい。機会があれば同業の先輩たちとやってみたいと思っている。
ここまで言える、ここからは闇
最後に、この記事の限界を書いておく。
- Uberの配車ロジックの実物は誰にも見えない。この記事は全て、公開されたポストと配達員ネットワークの証言という「外から観測できる表面」からの逆算だ。
- 「3回目から鳴らない」は俺の聞き取り範囲(地方・少数)の話で、全国で同じ挙動かは分からない。
- 仮説A〜Cは排他的ではなく、複合している可能性の方が高い。
それでも、客側の「見つかりません」と配達員側の「鳴らない」を突き合わせると、「配達員不足」という公式っぽい説明だけでは足りないことは言えると思う。配達員はいる。画面の向こうで、鳴るのを待っている。
この夏、あなたの注文が「配達員を探しています」のまま止まったら思い出してほしい。探していないかもしれない。


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